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ikari001

1.留目科学捜査官

 僕は怖い話が大好きだ。といってもホラーとかじゃなくてどちらかというとサスペンスな感じの話がたまらない。
 話そのものは、本当だろうと聞いた話だろうと構わない。露骨に創作と言わなければ例え創作だろうと構わない。どちらかと言えば実話っぽい話であれば良いのだ。
「五十里くんまた変なの読んでる」
 隣にいる同僚の小鳥遊さんが僕のケータイをのぞき込んで言った。
「変なのじゃありませんよ」
 休み時間。誰が何をしていようと勝手である。
 ちなみに今見ていたのは、お気に入りのオカルトサイトである。
「ほんっと、オカルト好きだよね。…あ。そういえば」
 小鳥遊さんが席を立ち奥の保管室へ消えた。話の流れ的にオカルト関係の何かだろうか?だとしたら嬉しいような怖いような複雑な気分だ。オカルトには興味があるけど、実際に体験するんじゃなくて話を聞いたり読んだりする方が好きだからだ。
「これ、もう調べ終わったから返してきて」
 ずいぶんと汚れた書物だった。
「なんですかこれ」
「何かの百科事典」
 オカルトでもないんでもないじゃないか。
「返却って警察署にですか?」
「ほら、新しく赴任した科学捜査官の人と直接返しに行ったら?」
「ああ。元刑事の…たしか…留目さんでしたっけ」
「そうそう。留目科学捜査官」
 なんでこんな事に。単なる研究員が直接持ち主に届けても問題ないのだろうか?
「ていうか、この本なんにもオカルトの流れと関係ないじゃないですか」
「あら?知らなかった?それ、イワクツキの本なのよ」
「え?呪われるとか?」
 思わず持っていた本を落としそうになった。
「違うけど…似たようなものかなぁ」
「いやいやいや、どっちですか!嫌ですよ呪い系は」
 そんな僕の様子を面白そうに眺めながら小鳥遊さんは「大丈夫」などと適当に流す。まったくなんて人だ。
「えっと、遺族は山の方に住んでるみたい。ドライブがてら行ってきなよ」
「いや、もう行くこと決定ですか」
 訳が判らないが、イワクツキの本を返しに行くことになった。割と暇だったのが運の尽きと言える。とある地方の科捜研とはいえメチャ振りだ。

 仕方が無いので留目さんの元へ出向いた。実は名前は知っていたものの会うのは初めてだった。彼の名前は留目心輝(とどめもとき)。元刑事というが科学捜査官になったのはどういう経緯からなのだろうか。ちょっとだけ興味がある。

「こんにちは、留目さんいらっしゃいますか?」
 部屋を覗くと一人難しそうな顔で新聞を眺めている人物がいた。もしかしてこの人が本人だったりして。
「…私ですが」
 うわ。当たった!
 それにしても、結構…強面…だな。見た目が。
「あの、僕、研究員の五十里と申します。この本を返しに行きたいのですがご一緒して頂けますか?」
「はい。どこの署ですか?」
「いえ、警察署にではなく遺族に返すんです」
 たいていこういった押収品は担当の警察署に返すのが普通だ。滅多に科捜研から返すことはない。
 だが、留目さんはすぐに了承してくれた。
「そうですか。判りました」
 なんともとっつきにくそうな感じの人だったが、見た目と違って丁寧な口調だ。少しだけホッとしたものの、長時間かかるだろうドライブは決して楽しいものではないと感じた。仕方が無い、仕事なんだ。

 *****

 山深い道をひたすら進む。とても良い天気でドライブには最高の日だろう。相手が気心知れた相手なら。
 しかし隣で黙って運転しているのは今日初めて会った留目科学捜査官。僕は人見知りではないけど、留目さんからは他を寄せ付けないオーラが醸し出されている気がする。
 気を取り直して僕は渡されたメモを見つめた。そこには遺族の名前と住所と電話番号。現場で押収した本の名前のみ。この本は百科事典なんだけど、どうも元々全巻揃ってあったわけでなく、なんとも中途半端な一冊が押収されたようだ。
 どんな事件で、どんな意味があったのか聞かなかったけどイワクツキらしい。なんとも不気味な話である。
 袋にしまっていたその本を何気なく取り出し、パラパラとめくってみた。
 ボロいけど中身に問題は無く普通に読める。植物か何かの本みたいだ。
「五十里さん、その本…もしかして首吊りの本ですか?」
「えっ?なんですかそれ」
 いきなり何を言い出すのだろう。
「違うのならいいのですが」
「そ、その首吊りの本ってなんですか?」
 留目さんはまっすぐ前を見ながらしばし押し黙る。が、ポツポツと話し出した。
「昔担当したヤマの話ですが、連続して首吊りが発生しまして。最初は自殺と判断したのですが、かなりの頻度で発生したため他殺も含めて捜査したんです」
 ごくり。僕は息を呑んだ。
「結局は集団自殺という事で終わったのですが、不思議なことに自殺者の元には必ずある本があったのです」
「まさか…この本ですか?」
 ちらりと横目でそれを見ると留目さんはこくりと頷いた。
「その本に似てます。自殺者全員が同じ本を踏み台として使っていたんです」
「同じ本…!」
 イワクツキ。この本を所有したが為に首を吊ったというのだろうか?

「自殺した人達がどうやってその本を共有したのかは判りませんでした。まったく接触がないにもかかわらずです。なのに全員がその本を踏み台にして首を吊ったのです」
 一気に鳥肌が立った。これぞ、まさにオカルトな話じゃないか!!
「こ、この本が…」
「最後の首吊りの時に念のためにその本を科捜研に送ったのを覚えてます。それからピタリとそのようなことは治まったのです」
「この本は持っていると首を吊ってしまうって事ですか?押収日を見たら結構長い間保管されてたみたいですが」
「その本かどうかは私には判りませんが、知っている限りそんな事があったという事です」
 僕は怖くなって本を袋にしまった。
 なんてことだ。そんな恐ろしい本が保管室にあったなんて。

 と、そこで僕はあることに気付いた。
「あの、それがこの本だと仮定して、たぶんこの本の持ち主は最後の自殺者になると思うんです。もし、今この本を遺族の方に渡したらまた自殺者が…」
 僕の問いに留目さんは答えない。ただ黙って運転しているだけだ。
「返すのまずいですよね?」
 と、車が停止した。
「着きましたよ」
 見ると目的地の家の前だった。
 僕は体がガタガタ震えているのを感じていた。
 どうしよう。返さなくていけないけど、これがある限りまた自殺者が。

「…ふふ」
「え?」
 見ると留目さんが笑っていた。
「すみません。ちょっと脅かしてしまいました」
「え?…え?」
 留目さんは笑いをかみ殺してこちらを向く。
「冗談です。五十里さんがそういった話が好きだと聞いたことがあったので、つい」
 …なん…だと?
「は…はは…冗談…」
「でも、それ、首吊りの踏み台になってた本ですよ」
「もう、冗談はいいですって」
「本当です。首を吊ったあとの吐瀉物で本が汚れているでしょう?」

 このあと、僕は声にならない声を上げて気を失った。

 これが留目科学捜査官との出会いの話である。
 ちなみに、この本が首吊りの踏み台になっていたのは本当で、当初事件性も疑われたため、汚れた本を科捜研に回したようだ。
 小鳥遊さんの言うイワクツキというのは多分汚れたものという意味で言ったのかも知れない。

 何にせよ、この一見強面でオカルトな話をしそうにない留目科学捜査官に僕はこれからも翻弄されることになる。